#10 DXとは

想定読者:初学者の方・業界・バズワードに興味がある方 / 想定時間:25分~30分程度
 記念すべき第10回目のテーマは、よく聞く”DX”について触れたいと思います。最後にDXを推進するにあたり、効率化や高度化の推進に向けた失敗例や対策を一枚にまとめてますので、参考になれば幸いです。


#1 ICTの利活用による改善がテーマ

 DXの定義としては、2004年にエリック・ストルターマン教授によって“ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い報告に変化されている事”と提唱されました。(Erik Stolterman, Anna Croon Fors (2004) “Information technology and the good life”, Information Systems Research Relevant Theory and Informed Practice)

 一方、現在DX(デジタルトランスフォーメーション)を様々なシーンで耳にするかと思いますが、中身を見ると様々な概念を謳っているため、よくわからなくなりませんか?これは、現在では“デジタイゼーション”、“デジタライゼーション”、“デジタルトランスフォーメーション”が入り混じった形で“DX(デジタルトランスフォーメーション)”と呼ばれることが多いためです。ですので、記事や触れ込みを見る際には注意が必要となります。

 これらの違いを、情報通信白書の定義を流用すると、以下のような形になります(情報通信白書 令和3年版、第一部 第2節 デジタル・トランスフォーメーションの定義 より、https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html

デジタイゼーション”:既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること

デジタライゼーション”:組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること

デジタルトランスフォーメーション”:企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること


 それぞれの違いと例示を図示してみました。
 “デジタイゼーション”は、例えば決議に対して紙で印刷して上司に押印いただく回覧を実施していた場合、それをPC上のワークフローを整備して実施することなどが対象となります。こちらはSaaS(Software as a Service)に代表される、比較的単一パッケージのソフトウェアを導入することなどで実現可能なレベルになっています。
 “デジタライゼーション”は、例えば毎週報告資料を決まったフォーマットで上司に提出する必要がある場合、基本的にあまり変わらない部分をマクロやRPA(Robotic Process Automation)といった技術を駆使して自動で出力することで、業務負荷を軽減する(=生産性向上につなげていく)ことで実現可能なレベルになっています。DXという言葉が流行る前から生産性向上としてデジタル化の動きを国が提唱していましたが、その概念が今はDXに包含されていると解釈できます
 “デジタルトランスフォーメーション”は、これまでの活動は実施できるスキルや人材がいる前提で、更なる高度化として、組織自体が変化することや新規のビジネスモデルの構築などができるレベルです。例えば、EA(Enterprise Architecture)やERP(Enterprise Resources Planning)導入などが手段の一種で、組織横断の情報管理を例示には挙げています。


#2 企業の関心が高く効率化の観点は実現しつつある

 それでは、世の中の企業はどれだけ関心を持って対応しているのでしょうか。IPAが発行している最新レポート(DX動向2024, IPA, https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/eid2eo0000002cs5-att/dx-trend-2024.pdf)によると、金融・保険業は97.2%、製造業等が77.0%取り組んでいると回答があります。一方で、サービス業は60.1%とまだまだ伸びしろがある調査結果が公表されています。

 注意が必要なのは、前の章で記載したようにDXには3つの段階がすべて混じっているため、紙をデジタル化にした段階でもDXに取り組んでいる判定になります。その視点でも考えると、金融・保険業は同様の処理になりやすい決済業務の自動化に取り組んでいたり、製造業はライン管理や情報管理といった側面で取り組んでいると推察できます。サービス業は、例えば塾などの教育分野や飲食分野などが対象になる中で、大規模なチェーン店は決済の自動化など積極的に取り組んでいるイメージですが、まだまだ小規模のお店などは対応できていない状況が数値に反映されていると推察できます。

DX動向2024、IPA、図表1-3より(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/eid2eo0000002cs5-att/dx-trend-2024.pdf

 
 また、DXに取り組んでいる企業に対して取り組み成果のアンケートを取った結果として、現状業務の効率化は徐々に定着しつつあるが(例:“アナログ作業のデジタル化”は64.7%の企業で成果が出ている)、“付加価値の向上“などの効果に向けてはまだまだ取り組み中(例:”付加価値の向上”は31.2%の企業で成果が出ている)となっています。(注:数値はあくまで取り組んでいる企業数での達成率)。高度化の推進を苦戦している状況を、この数値から読み取ることができます。

DX動向2024、IPA、図表1-14より(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/eid2eo0000002cs5-att/dx-trend-2024.pdf)

#3 ”高度化”や”企業規模に応じた”課題あり

 DXに取り組まない(取り組めない)企業の理由としては、解答の全般として①知識や情報が不足している、②統括や立案する人材がいない、③実際に推進する人材がいない、ことが問題になっています

DX動向2024、IPA、図表1-3より(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/eid2eo0000002cs5-att/dx-trend-2024.pdf

 
 ここからは筆者の自論になりますが、本記事が一助になればと思い、DXを推進するにあたり、効率化や高度化の推進に向けた失敗例や対策を一枚にまとめてみました

 まず効率化推進は、短期的に費用対効果が出やすい改善活動になりますので、できるだけシンプルに考えて、様々な企業が取り組んでほしい内容になります。(ただし、従業員が少ないとかえって固定費の負担が大きくなりますので、無理に入れるものではなく、あくまで費用対効果が出そうならのおすすめです)。よく聞く失敗として、風呂敷を広げすぎて行動が伴わないことが挙げられるため、如何に対象を絞って、クイックに実行するかがカギになります。そのためには、導入もクイックにできるツールが望ましく、例えばエクセルのマクロでもいいですし、SaaS(のアプリケーション)、RPAなども駆使して1~2か月程度で導入・効果を狙っていきましょう。成功体験を積み上げることでモチベーションの向上にもつながります。
 上記を円滑に推進するためには、定常業務とは何か?を認識することが非常に重要です。自身では当たり前に業務を遂行しており、取り出すことが難しいケースがありますので、その際には外部に依頼する手段もあります。


 次に高度化についてですが、こちらは効率化の延長線上にあるわけでは無いことに注意する必要があります(全く別物だと思って頂いても過言ではありません)。よくある失敗事例として、各々が改善活動をしっかりと実施している素晴らしい企業(部署)であるがゆえに、その先と言われてもどうしたら良いかわからなくなったり、全体最適を推進した際に必ず使い勝手が多少悪くなるものですが、そもそも個別最適にしている環境が元々あるわけですから、現場から使いづらいと反発が起きるものです。一方で、これらをうまく”回避”して導入したシステムなどは、全然使われず、何のために導入したんだっけとなりがちです。
 これらを未然に防ぐためには、兎にも角にもステークホルダー間で“目指す姿”の合意形成が非常に重要となります。経営目標との紐づけや導入に対するメリットデメリットの検討などで工数は掛かりますし、利害関係も発生するので大体揉めますが、先に揉めるか後に揉めるかを選択するなら先に揉めたほうが影響(損害)は軽微ですみます。これが合意されて初めて、そのギャップを元に、改革に向けたロードマップを描いて周知することで円滑に推進できる状態になります。ですので、高度化に向けてはすぐに行動せず、将来どのような姿になりたいのか、まずは、こんなこといいな、できたらいいなを想像することが大切です。その後、各ステークホルダーの思いを吸い上げ、合意形成に移っていきましょう。