サマリ
想定読者:業界・バズワードに興味がある方 / 想定時間:15分~20分程度
第11回目のテーマは、技術のトレンドに触れることが出来るハイプ・サイクルについて取り上げます。
#1 技術トレンドを一纏めにしたハイプ・サイクル
技術トレンドを探す際に、皆様はどのように探していますでしょうか。例えば、特許を見てみる、Googleの検索ワードのヒット数を追うなど、各種手法がありますが、中々時間がかかりますよね。そんな苦労を解決してくれる資料が実は発行されており、それが今回の記事で紹介する、Gartner(ガートナー)社が出している”ハイプ・サイクル”になります。
毎年発行される強力なコンテンツになりますので、今回注目して見ていきたいと思います。まずは構造を見てみましょう。
Gartner、 ハイプ・サイクル、ガートナーハイプ・サイクル、より引用(https://www.gartner.co.jp/ja/research/methodologies/gartner-hype-cycle)
縦軸が期待度、横軸が時間となっており、それぞれ5つの象限で分かれています。それぞれ簡単に記載すると、
時期 | 状態 |
---|---|
黎明期 | メディアや業界の関心に火が付き始めた状態 |
「過度な期待」のピーク期 | 現実的な能力以上に期待される状態。経済バブルが形成されることもある |
幻滅期 | 投資対効果の遅れなどから過度な期待が収束していく状態 |
啓発期 | 一部の企業が成果を見出しはじめ、取り組んでいなかった他の企業が追随を検討する状態 |
生産性の安定期 | 多くの企業が採用し始め、主流になった状態 |
となります。また、それぞれの技術には図の下にある〇や△などで表現されており、これは”生産性の安定期”に到達するまでの予測時間となっています。こちらは次の章で具体的に見たほうがイメージが付くと思いますので、さっそく進みましょう。
(※詳細はガートナーの記事をご参照ください:https://www.gartner.co.jp/ja/research/methodologies/gartner-hype-cycle)
#2 最新レポートは2024年8月に発行
最新レポートは2024年8月に発行されています。こちらも早速見てみましょう。
Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」より引用(https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20240807-future-oriented-infra-tech-hc)
各種の技術名が記載されており、5象限の中にプロットされています。前章で説明していた〇や△のも含めて見てみると、例えば、Meta社(旧Facebook)が精力的に取り組んでいた“メタバース”は、 “幻滅期”にいる状態であり、安定期に移るまでの予測が“5~10年” であると解釈できます。
記載されている技術を見てましょう。知名度の高い図内の右側から見てみると、”人工知能”や”ブロックチェーン”、”量子コンピューティング”など、ここ最近ホットな単語が並んでいますね。幻滅期(期待が下がっている部分)には、前述したメタバースが配置されています。コロナ渦もあり、以前企業が遠隔のコミュニケーションツールとして積極的に導入しようとしていましたが、現在そこまで浸透していないあたり、妥当な評価だと思われますね。
「過度な期待」(山の天辺)には、”生成AI”があります。AIによる独自で作画・作曲・作文などができる技術の総称ですが、これがピークを過ぎて今後下降するとガートナーは見ているようです。ピークに向けて上昇している中には、”サステナビリティ管理ソリューション”があるのが興味深いです。こちらは、近年企業活動の評価指標や規制対応としてサステナビリティの要件が表出されてきている背景から、企業として注目度が上がり、対応を本格的に検討していることが、最近のバズワードとして登録されていると解釈しています。
ガートナーが公表した中で、今年の初出しワードを見てみましょう。また、私の方で簡単に調べた概要も記載しています。(故に正確ではない可能性もありますので、ご了承ください。)
初出し単語 | 概要 |
---|---|
検索拡張生成 [RAG: Retrieval Augmented Generation] | AIによるテキスト生成の補助媒体として、企業や個人のローカルにあるデータを加えることで検索精度を上げる技術 |
マシン・カスタマー | 機械が判断して人間の代わりに購買行動を実施する技術。食品残量に合わせた発注自動化が既に実現されている |
ヒューマノイド | 人間そっくりのロボットが作業をする技術。例えば、ペッパー君が該当する |
エンボディドAI | AIに身体(Embodied)を持たせた技術。ドラえもんが該当すると思われるが、調べていても”ヒューマノイド”との線引きは不明瞭 |
LBM [Large Behavior Model] (大規模振る舞いモデル) | 発信者の行動に対して、受信者の反応(の集まり/データ)をLLMを通じてチューニングさせることで、より受信者にフィットした情報提供を可能にする技術。(受信者の反応を取り込む点が新規性とのこと) |
Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」の記事より初出し単語を引用(https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20240807-future-oriented-infra-tech-hc)、概要は筆者調査結果より
今回紹介しきれなかった技術にも面白いものもたくさんありますので、これらを今後一つ一つ記事にできたらなと思っています。
#3 過去と比較するとなおトレンドが浮き彫りに
ハイプ・サイクルは単独でも非常に興味深いのですが、過去と照らし合わせるとさらに深い洞察が得られます。例えば、“IoT”や“スマートファクトリー”、“Fintech”などは以前図示されていましたが、今年のレポートにはいません。どこかに統合されているか、バズワードと見なされなくなったかのどちらかが判定されたと解釈できます。(ちなみにですが、”IoT”は、ポーターが提唱した”コネクテッド・プロダクト”に内包された模様です)
一方、“人工知能“は、DeepLearningを代表とする学習モデルや、Stable Diffusionなど画像生成AIが流行りだした数年前に、”黎明期”の技術として左側にプロットされて登場していたのですが、ChatGPTによる爆発的な普及により、かなり早い速度で”啓発期”に遷移しています。ガートナーとしては、2~5年後には、企業側でさらに有効に導入・活用される(安定期に入る)のではないかとの予測です。
このように、ハイプ・サイクルだけを見てもかなり有益な情報を得られるので是非活用してみてください。ただし、もちろん記載がない技術も大変重要ですし、年数予測なども鵜吞みにせず、あくまで参考情報の一つにした方が無難です。