サマリ
想定読者:設計業務に興味がある方 / 想定時間:25分~30分程度
第15回目のテーマは、マニアックになりつつありますが基板設計業務全般について取り上げます。
#1 まずはラフに検討して外部とのIO仕様を固める
まず、”基板設計”は”基本設計フェーズ”に属します。前々回の記事より、要件定義フェーズの検討と並行、または完了後、基本設計フェーズとして基板の設計に移ります。これより、インプット情報は、要件定義フェーズにて定義された、機能・非機能要件となります。
最初に取り掛かる検討としては、大まかなモジュールベースで良いので、機能を担当するICや周辺回路構成を検討します。具体的には、演算する部分をどうやって実現するか、センシング機構が要件にあればどうやって実現するかなどを、まずはラフに配置します。
この際、ハードウェア担当だけではなく、当然、適宜ソフトウェア担当や筐体設計担当と仕様に関して調整を実施します。要件や仕様が定まらない段階でも、これまでの経験則から、例えばメモリはXMB以上にしようとか、演算速度が間に合わないから上位モデルのチップを使おうなど、概算ではありますが仕様を固めていきます。
既に導入実績のあるチップならばよいのですが、新規開発案件だと当然新しいチップを活用することもあります。ぶっつけ本番での採用はリスクが高すぎますので、この段階もしくは、要件定義フェーズ内でメーカからサンプルを取り寄せ、自前(自費)で性能評価を実施しておくこともあります。
大まかな構成が定まり次第、今回の開発スコープを抑えにいきます。具体的には、顧客からのIF仕様と上記検討結果の仕様を元に、外部とのIF設計を実施し、システム自体のIO仕様を固めていきます。なお、顧客が同時並行で開発している際には顧客側の接続仕様が固まっていない場合もありますので、その際にはこちらからの希望を提示し、徐々にすり合わせる形となります。外部IFの変更は手戻りが多く発生する箇所でもありますので、早いうちからラフでも提示して擦り合わせておくことがリスク回避になりますのでおすすめです。
#2 システム内部の基本検討を実施
ある程度モジュール設計が固まり次第、徐々に設計を深堀していきます。基板設計においては、コアの機能を担うチップ(IC)が一番重要であり、今後の設計内容に一番影響を及ぼしますので、QCDすべての観点から要件を満たせるメインのICを選定します。
上記のような一文でさらっと書いていますが、この選定はPJの成功要否に大きく関わりますので、かなりの時間をかけて慎重に行います。例えば、要件を全て満たせるICを置くと、コストが高くなりすぎるためNGが出たり(周辺回路に機能を分散させる必要がある)、チップ独特の制約で周辺回路の指定が出る場合には拡張性が乏しくなることに問題が無いかも検討しますし、10年以上は安定供給されるのか、そもそもプロジェクト納期に間に合うように購入できるのか、熱の問題はどうか、、、などなど複合的な目線から評価し、選定します。
一番消費電力がかかるチップと周辺モジュール周りが大まかに検討できると、次は電源回路構成をラフに検討していきます。この時点まで来ると、何V/何Aが必要かをざっくり見積もれるようになっていますので、こちらもQCDの観点から徐々に回路構成やメインのチップ選定を実施します。
同時並行でも実施しますが、ある程度イメージが付いたらサイズ感を割り出して、基板配置案を検討していきます。メインのチップや電源回路があまりにも大きすぎて、サイズが収まらず、やむなく再検討になったことも少なからずあります… このため、こちらもラフの段階から見ておいた方が無難です。なお、この段階から筐体設計担当が、配置とチップを元に熱設計を実施します。その検討結果を受けて改善要望が来ることもあるので、臨機応変に対応していきます。
上記の熱設計にもかなり関連してきますが、配置が徐々に固まりつつある段階で、実基板の配置を検討します。具体的には、1枚板だと筐体に入らない場合には複数枚に分割させて配置する、PCのようにIOボードは別にしてケーブルで飛ばすなどを決めていきます。この基板の分割方針が定まると、システム内部での詳細IF仕様が検討できますので、この段階から固めていきます。
#3 コスト感も加味しながら詳細設計を実施
これらが一度でスムーズに進行することは余りなく、都度、設計を修正しながら要件を満たせるように検討していきます。モジュール案、基板配置案や詳細IF仕様が定まると、いよいよ本格的な回路設計に移ります。
例えば、各チップの電源周りの設計としてコンデンサはどの程度配置するのか、絶縁の仕様はどう満たすか、周辺チップとのIF仕様はどうするか、初期値はどうするか、起動シーケンスはどう調整するか、コスト内に収まるのかなどなど、全てにおいて根拠のある設計理由をもとに決定していきます。
すごくマニアックな話ですが、例えばICの電源回路について、コンデンサを大量に入れれば安定しますが、コスト、サイズ、突入電流、ロスなどを考えるとむやみやたらに入れることはできません。昔、上司に、「過去実績のデッドコピーやチップのデータシートなどで書かれた通りに設計するのは2流でもできる。それを今回の要件やテストの側面なども含めて、複合的な観点から設計できて初めて1流だよ」と言われたことを今でも覚えています。常に正解はない世界の中で、どれだけ自分なりの根拠を持って設計できるか、時間的制約を踏まえながらできる限りに検討していました。(正直、楽な業務ではないですね…)
ある程度の回路設計をCAD(アプリケーション)上で完了した段階で、回路図とBOM(部品リスト)を元にパターン設計に移ります。実は回路設計だけでは性能通り動くことはなく、このパターン設計がかなり肝になるのですが、込み入った内容ですので、次回に記載したいと思います。