サマリ
想定読者:業界・バズワードに興味がある方 / 想定時間:20分~25分程度
第8回目のテーマは、インダストリアル・インターネットについて触れます。今回詳細に調査してわかったこともあり、私自身も勉強になりました。
#1 GEが提唱した概念を軸に共同体を設立
いきなりですが、記載時点で”Industrial Internet CONSORTIUM”のサイト自体ありませんので、信憑性の高い情報通信白書(総務省、「情報通信白書」、https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html)とJETROの記事(JETRO、「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)の活動状況(2021年3月)」、(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/02/ed2b5f3d1764dc9d.html))をベースに本記事をまとめています。
Industrial Internet(インダストリアル・インターネット)の構想は、2012年にGE(ゼネラル・エレクトリック)が初めて提唱しました。その定義としては、”センサーなどのモノとモノをデジタルネットワークでつなげることで、モノを自律的に作動させる仕組み”とのことです。
前々回のIoTの記事を振り返ると、1999年にKevin Ashtonが提唱した概念より少し拡張されており、また、前回のインダストリー4.0の記事を振り返ると、”自律的”という点では、ほとんど似たような定義になっているかと思いますので、少なからず影響しあったのではないかと思っています。(補足:インダストリー4.0の方が、”バリューチェーンに沿う”意味も含まれているので、インダストリアル・インターネットより広い概念と捉えることが出来ます)
なお、IoTとは違う点として、”Indstrial(産業の)”という名称が含まれていますので、BtoBに特化したユースケースとも捉えることが出来ます。
その後、2014年に同じ理念を持つ企業によって組織化され、AT&T、Cisco、IBM、Intelを加え、5社が中心となって共同体(コンソーシアム)を設立し、業界としてのイニシアティブを取るべく精力的に活動していました。以後、本共同体を、Industrial Internet Consortiumの頭文字を取ってIICと略します。
#2 推進活動や他WGとの交流も積極的に実施
IICが掲げる施策としては、①技術要素の規定、②戦略とソリューションの規定、③テストベッド(応用事例検証)の3つの軸があります。また、運営委員会と6つのWGを通じて活動しています。下にJETROがIICより引用した図を引用します。
主活動として技術知見(①)を深めるだけでなく、ソリューションの形で導入実績を公表する活動(②)も実施されています。テストベッド(応用事例検証)(③)は、例えばコネクティッドカー(≒自動運転)の実証実験など、先進事例の検証を行う活動を実施しています。
WGとしては、テクノロジーWG、セキュリティWG、リエゾンWG、マーケティングWG、デジタルトランスフォーメーションWG、 インダストリーWGの6つで構成されており、それぞれでパブリケーションのドキュメント(成果物)を公表しています。
(JETRO、「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)の活動状況(2021年3月)」、(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/02/ed2b5f3d1764dc9d.html)、図表1より引用)
(JETRO、「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)の活動状況(2021年3月)」、(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/02/ed2b5f3d1764dc9d.html)、図表4より引用)
特に、テクノロジーWG は、2016年にドイツの Platform Industrie 4.0(PI4.0)の作業グループとジョイントタスクグループを設立するなど交流も積極的に実施しています。両概念上の共通点のすり合わせも実施していることから、当初は別々に活動を続けていた中でも、世の潮流からか、徐々に統合の動きが見られた点は興味深いです。下にJETROがIICより引用した図を引用しますが、IIRA(Industrial Internet Reference Architecture);IIoT側(左側)とRAMI(Reference Architectural Model for Industrie 4.0);インダストリー4.0側(右側)のアーキテクチャにおける共通点を図示しています。
(JETRO、「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)の活動状況(2021年3月)」、(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/02/ed2b5f3d1764dc9d.html)、図表9より引用)
※もし更なる詳細を知りたい方は、JETROの資料が非常に詳しく記載されていたので、参照をお勧めします(JETRO、「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)の活動状況(2021年3月)」、(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/02/ed2b5f3d1764dc9d.html))
#3 時代の変遷とともに共同体の思想も変化
IICの動向を追っていた中で、近年大きく動きがあった模様です。下図に推移をまとめていますが、2021年ごろに、“Internet” から”IoT”の概念へ、2024年ごろに”IoT”から”Digital twin (デジタルツイン)”の概念へ、時代の変化と共に共同体も変遷していました。
元々IoTに近い定義をしていたので共同体の名前をIoTに名称を更新することは理解できますが、なぜ近年にデジタルツインのコンソーシアムに吸収されたのでしょうか。ここは、IIC時代に発行されたアーキテクチャの図にヒントが隠されていました。
(IIC、”Digital Twin and Asset Administration Shell Concepts and Application in the Industrial Internet and Industrie 4.0″ ~An Industrial Internet Consortium and Plattform Industrie 4.0 Joint Whitepaper~ , Figure 9より引用)
こちらはなんとIICとインダストリー4.0のワーキンググループが合同で出した書類です。その中の一枚にアーキテクチャのレイヤーが紹介されていますが、下から、①Implementation Viewpoint、②Functional Viewpoint、③Usage Viewpoint、④Business Viewpointとなっており、それぞれ対応したアーキテクチャが右に記載されています。①はIIoT Platform services (※正式には”IoT”にIndustrialの”I”が先頭に入った”IIoT”の記載になっています)、②IIoT/Industrie4.0 system ③digital twin(ecosystem)となっています。④は例えば車や医療といったビジネスの利用目的なので割愛されていると捉えています。
こちらを見るに、スマートファクトリーのようなインダストリー4.0のモデルや、IoTのモデルはあくまで①Implementation Viewpoint~②Functional Viewpointという①物理軸と②機能軸の間の概念と整理されており、それらを踏まえた概念として、②Functional Viewpoint~③Usage Viewpointという②機能軸と③取り扱い軸として”デジタルツイン”が上位に位置しています。
IoTの定義が発足当初より狭まった(と私は認識していますが)代わりに、上位概念でデジタルツインが出てきていますので、コンソーシアムの名称も、”Internet”→”IoT”→”デジタルツイン”という上位概念へ更新していったのだと推察しています。
余談ですが、こちらの図がIICとインダストリー4.0の共同で出ているため、事実スマートファクトリーの概念はデジタルツインに内包されたと理解すべきですが、現状世の中の記事を読んでいると、”スマートファクトリーとしてもデジタルツインを実装しよう”のような扱われ方をよく見かけます。世の認識としては、デジタルツインとスマートファクトリーのレイヤーが逆転?ラップ?しつつあるかもしれませんね(もしくは誤用でしょうか…)