サマリ
想定読者:業界・バズワードに興味がある方 / 想定時間:15分~20分程度
第7回目のテーマは、インダストリー4.0について触れます。今回詳細に調査してわかったこともあり、私自身も勉強になりました。
#1 スマートファクトリーの在り方を提唱
そもそもインダストリー”4.0″とナンバリングされているのは、産業革命の歴史からつながっていることを示唆しています。詳しい内容は他の様々な記事で紹介されているため、こちらでは簡単に記載すると、インダストリー1.0は蒸気機関による(軽工業)自動化の走り、インダストリー2.0は重工業による大量生産、インダストリー3.0はコンピュータによる機械化がターゲットとされています。
その中で、ドイツが2011年にインダストリー4.0として、産業政策を提唱しました。その内容は、“バリューチェーンに沿って自律的に相互に通信する技術や機器に基づく生産プロセス機構(筆者訳)”としており、上記を活かしたモデルとして“スマートファクトリー“が掲げられています。
Industry 4.0 describes the organisation of production processes based on technology and devices autonomously communicating with each other along the value chain: a model of the ‘smart’ factory of the future where computer-driven systems monitor physical processes, create a virtual copy of the physical world and make decentralised decisions based on self-organisation mechanisms.
引用:”Industry 4.0″ 、European Union(https://op.europa.eu/publication-detail/-/publication/1b970736-9acb-11e6-868c-01aa75ed71a1)、3.1節より
難しく捉える必要はなく、技術の発展によりコンピュータによる自動化が推進されてきた背景から、①これまでは人が目検などで作業していた業務をシステムが代替することで、自動化を目指します、②そのためには相互通信技術なども駆使してリアルタイムに近い形で情報連携と、機械による判断を促すことを目指します、③ひいては工場内のオペレーションは省人化で実現できるようになるため、これをスマートファクトリーと言葉の定義をします といった感触を以ってもらえれば遜色ないと思います。
余談になりますが、インダストリー4.0の内容を紹介する記事を見ると、偶に”AIなどを駆使して”などの文言が掛かれていることがあります。しかし、あくまで本文ではそこまで具体的に手段を記載されていないため、執筆者がバズワードを入れたくて追記した感じと捉えられます。
また、2030年に向けた構想として、2019年に“自立性”、“相互運用性”、“持続可能性”のコンセプトを追加しています。(”2030 Vision for Industrie 4.0”, https://www.plattform-i40.de/IP/Redaktion/EN/Downloads/Publikation/Vision-2030-for-Industrie-4.0.html より)
こちらは、ちょうどESG(E: Environment(環境)/S: Social(社会)/G: Governance(ガバナンス))が流行りだした時期での更新ですので、時代の変化とともに価値観をアップデートしたと推察しています。
#2 近年Industry 5.0 が提唱され、”人間”がテーマの一部へ
同じくドイツが2021年にインダストリー5.0を公表し、HUMAN-CENTRIC(人間中心)、RESILIENT(強靭性)、SUSTAINBLE(持続性)、のテーマとして提唱されました。(”Industry 5.0, a transformative vision for Europe”, European Union, https://op.europa.eu/publication-detail/-/publication/38a2fa08-728e-11ec-9136-01aa75ed71a1)
公表からも、既存のインダストリー4.0のアプローチを補完するものとありますので、厳密にはインダストリー4.0が達成しつつあるからコンセプトを更新したわけではなく、インダストリー4.0が推進するスマートファクトリーのような構想に加えて、AIの観点も無視できなくなったため人間中心とした価値観も含めて実現していきましょうとなった模様です。
It complements the existing “Industry 4.0” approach by specifically putting research and innovation at the service of the transition to a sustainable, human-centric and resilient European industry.
引用:”Industry 5.0″ 、European Union(https://research-and-innovation.ec.europa.eu/research-area/industrial-research-and-innovation/industry-50_en)、より
こちらも余談ですが、紹介記事でインダストリー4.0が終わったような書き方(表や矢印などで連続的に流れているように図示する)をよく見かけますが、上記より厳密には補完関係ですので、4.0と5.0の活動はラップしている形が正しいと解釈できますね。
#3 今後のIoTの在り方も変わるはず
ここで少し視点を変えて、IoTを中心に見た際にどうなるかを考察したいと思います。ドイツとしては、インダストリー4.0の要素としてIoTが含まれるとしているため、スマートファクトリーはIoTの要素が詰まった概念とも捉えることが出来ますね(ユースケースからの視点のため)。
These developments make the distinction between industry and services less relevant as digital technologies are connected with industrial products and services into hybrid products which are neither goods nor services exclusively. Indeed, both the terms ‘Internet of Things’ and ‘Internet of Services’ are considered elements of Industry 4.0
引用:”Industry 4.0″ 、European Union(https://op.europa.eu/publication-detail/-/publication/1b970736-9acb-11e6-868c-01aa75ed71a1)、3.1節より
これまでIoTは自律的な動作やインターネットへの連携を基本として技術開発や導入事例など、様々な形で推進されてきましたが、インダストリー5.0が提唱されたことで”IoT”の実現イメージに多少なり影響が出るはずです。(そもそも論、まだインダストリー4.0に掲げるスマートファクトリー自体、出来ていない企業が多いですので、5.0の概念を含んだアップデートはかなり先になりそうではありますが…)
RESILIENT(強靭性)、SUSTAINBLE(持続性)の観点からは、IoTの導入時に環境を配慮した部品選定や仕組み、産業としてのエコシステムを形成するなどでイメージつきますが、HUMAN-CENTRIC(人間中心)は、解釈が難しいです。HPには関連しそうな具体例として、
-adopting a human-centric approach for digital technologies including artificial intelligence (Proposal for AI regulation)
-up-skilling and re-skilling European workers, particularly digital skills (Skills Agenda and Digital Education Action plan)
引用:”Industry 5.0″ 、European Union(https://research-and-innovation.ec.europa.eu/research-area/industrial-research-and-innovation/industry-50_en)、より
ざっくり訳すと”人工知能を含むデジタル技術に対する人間中心のアプローチの採用”と”欧州の労働者のスキルアップと再スキル化、特にデジタルスキルの向上”となりますが、スマートファクトリーやIoTの側面からは、なかなかユースケースがイメージできないですね。
ただし、もう少し俯瞰して考えてみると、近年IoTによる情報の自動連係+AIによる意思決定のシステムが徐々に現実味を帯びてきていますが、このシステム(概念)は、ほとんど”人”の代替と捉えても過言ではないと私は考えています。その場合、インダストリー5.0で提唱された”人”のように、将来どのように人が産業に関与するかは一題テーマだと考えることができます。”仮想的な人”と”現実の人”との協業はどのようなイメージで持てばよいのか、ここは壮大なテーマになりますので、もう少し自分なりの考えを練ってみたいと思います。(その未来予想図があれば、将来IoTに求められる役割や必要とされる技術も自ずと見えてくるはずです)